ソリューションレポート
北海道|
とうもろこし|
今回のソリューションレポートは子実とうもろこしをテーマに、北海道で試験的に行われたクボタ普通型コンバインWRH1200+子実コーンヘッダ※による収穫実演を取材しました。ヘッドロスが少なく、効率の良い収穫作業を実現する子実コーンヘッダの紹介と、子実とうもろこしを経営に導入し、新たな輪作体系を構築されている生産者の皆様の声をお届けします。
※2023年9月発売予定
導入メリットが多い子実とうもろこし
転作田での大豆・小麦による連作障害を緩和するため、新たな輪作作物として注目されている子実とうもろこし。飼料用米と比べても労働生産性も高く、大量の残渣をすき込むことによる土づくりも期待できる上に、水田の直接支払交付金(3.5万円/10a)等の補助もあり、今後、栽培面積の拡大が見込まれています。
生産者の声
土づくりを念頭に輪作体系に組み入れた子実とうもろこし
子実コーンヘッダの作業性にはとても満足しています
栽培面積が拡大する子実とうもろこし
当別町は、転作が多い地区で、水稲は25%くらいしかなく、かぼちゃやブロッコリー、花卉などが盛んな地域です。当別町の子実とうもろこしは、地域の生産農家からなるJA北いしかり子実とうもろこし生産組合が中心となり栽培に取り組んでいます。2016年には1.3haだった栽培面積も2020年には57haまで増加しています。私も、組合の人たちから話を聞いて3 年前から栽培を始め、1年目、2年目は1.5ha、3 年目の今年は2.6ha作付けしています。子実とうもろこしを輪作体系に組み入れることで地力が上がり、補助金もそれなりに出ますからね。
管理作業が少なく生産コストが低いこともメリット
子実とうもろこしは毎年5月10日くらいに麦後に播種しています。今年は雨が降らなくて6月に入ってやっと芽が出てきました。子実とうもろこしは、雨が降ればどんなに遅くなってもちゃんと発芽してくるので、そういう意味では作りやすい作物です。管理作業は、基本的には2回の除草剤散布だけで、飼料用なので病害虫防除は一切行いません。経費がかからないのも良いですね。追肥については、今年は発芽が遅れたので行いませんでしたが、例年は硫安を施用しています。
課題は後作に影響を及ぼす雑草
収量は約1t/10aは取れています。子実とうもろこしは、北海道では栽培マニュアルがありますので、その通りに取り組めばそれほど難しくはないと思います。課題をあげるとすれば、雑草ですね。耕除草に入れないので、2回の除草剤で抑えないといけないんですが、イヌホウズキとか散布後に出てくる雑草があり、これはコンバイン収穫の際の大豆の汚粒の原因になりますからね。子実とうもろこしは、土づくりのために間に入れていくのは良いんですが、後作のためにも雑草を何とかしたいと考えています。輪作体系については、今は、子実とうもろこし、ビート、大豆、小麦の順に回していますが、色々と検討中です。
作業スピード・刈取精度が高い子実コーンヘッダ
WRH1200による子実コーンヘッダの収穫作業を実際に見ましたが、刈取性能については、とても良かったと思います。少し雨が降ってほ場が湿っていたのであまり良い条件ではありませんでしたが、それでも作業スピードも速く、ロスも少なかったので問題ないと感じました。脱こく・選別性能については、今回は濡れている分、正しい評価はできませんが、少し前に近隣農家の実演を見た時に、すごく選別がきれいでした。今日の条件下では茎や葉が多少混入しててもやむを得ないと理解していますし、良い条件で刈ったらもっときれいだったと思っています。
生産者の声
WRH1200の脱こく・選別性能はピカイチ!
新しいことにチャレンジすることで農業はもっと楽しくなる!
子実コーンヘッダの収穫実演を前提に
新たに子実とうもろこしを導入
赤平地区は、農家の8割以上が水稲をメインとする転作率が低い地域です。水稲と組み合わせて小麦や大豆、子実とうもろこしを栽培しているのは私だけだと思います。米が余りつつある中で、交付金もこの先ずっと続くかわかりませんし、今後の自身の経営を考えて畑作に力を入れるようになりました。子実とうもろこしは、大豆の一部を換えて、今年初めて2.3ha栽培しています。取り組むきっかけは、クボタ普通型コンバインWRH1200の導入です。北海道クボタからの提案もあり、子実コーンヘッダによる収穫実演を前提に、試験的に子実とうもろこしに取り組むことにしました。今まで稲・麦・大豆で回して、菜種も入れたりしてるんですが、4、5年経つと収量が大幅に減少してきます。子実とうもろこしを入れることで地力アップができるのではないかと期待しています。
WRH1200+コーンヘッダの作業性能を高く評価
クボタ普通型コンバインWRH1200は導入して本当に良かったと思います。ミラクルバースレッシャーによる脱こく性能に魅力を感じて導入しましたが、WRH1200は大豆を刈らせたらピカイチです。もっと世の中の人に使って欲しいですね。それと子実とうもろこしの収穫についても、私は高く評価しています。発売を予定されている子実コーンヘッダを装着したWRH1200での収穫作業を実際にほ場で見ましたが、刈取りはスムーズで、非常に良かったですね。脱こく・選別についてもとてもきれいに仕上がっていました。今年の結果を受けて、来年以降も子実とうもろこしを継続していくことに決めました。面積を3、4haに増やして輪作体系に盛り込んでいこうと思います。
新しいチャレンジで広がる営農
子実とうもろこしに取り組んで、あらためて思うんですが、今、新しいことに取り組む人が少ないですよね。それって農家をやっていて楽しいのかなと思うんです。もちろん新しいことに取り組むにはリスクがあるし、お金もかかるんですけど、新しいものを作れば、新しい仲間や業者さんと知り合うことができ、色々な情報が集まってきます。そういう新しいことにチャレンジすることで、もっと農業が楽しくなると思うんです。積極的に新しいものにチャレンジする人が1人でも2人でも増えれば、一緒にやっていきたいと思います。
ワンポイントアドバイス
労働時間が短く、機械費の削減が可能!
輪作体系に魅力ある子実とうもろこし
技術の導入と留意点
子実とうもろこしは他の作物に比べて流通ルートが確立しておらず、販売先を確保せずに栽培すると収穫後に困ることになります。また子実とうもろこしの収量は稲麦大豆を大きく上回る上に、カビが生えやすいので販売までの保管場所の確保も重要です。こうした課題に対しては、近隣の畜産農家や飼料工場などと連携して取り組む必要があります。しかしこうした課題を考慮しても、子実とうもろこしには多くの魅力があります。水稲などと比べて労働時間が短く、手間をかけずに大面積で栽培できる作物ですし、これまでのサイレージ用とうもろこしと異なり残渣の茎葉をすき込むことで土壌改良にも役立ちます。また麦大豆との輪作は連作障害回避や土壌改良による単収向上が期待できるだけでなく、コーンヘッダを除くと播種機、防除機、汎用乾燥機などの多くの作業機が共用できますので、利用効率向上による機械費の削減も可能です。さらに子実とうもろこしは飼料原料として国内需要量が1000万t以上あり、米や野菜のような過剰生産の心配もありません。
ウクライナ紛争などを通じて食糧自給率向上がこれまで以上に重要になってきたことから、子実とうもろこしがきちんと輪作体系に位置付けられ、定着することを期待しています。
栽培上の留意点
栽培にあたって最も注意してほしいのは排水対策です。補助金との兼ね合いもあって水田転作作物として栽培することが多いと思いますが、とうもろこしは大豆以上に湿害に弱く、きちんとした排水対策をしないと大幅な減収を招いてしまいます。このため排水の良いほ場を選び、弾丸暗渠や明渠などの排水対策をしっかり行うことが成功の秘訣です。子実とうもろこしは麦大豆以上に大量の肥料を必要としますので、畜産農家と連携して家畜ふん堆肥を施用し、化学肥料の投入量を減らすことが費用削減のために重要です。また生育中に葉色が薄くなってきたら窒素不足のシグナルですので、窒素追肥が必要です。
播種は大豆用播種機が使えますが、真空播種機などの高精度播種機が良い結果を生みます。とうもろこしは稲麦のように分けつしないので、原則1個体で1つしか雌ずいは形成されません。このため株間が狭いと雌ずいが小さくなりますし、欠株はそのまま収量低下につながります。
成長すると2mを超える大型作物なので、雑草は麦大豆ほど気を使う必要はありませんが、生育初期に防除に失敗するとやはり雑草に負けてしまいます。播種後の土壌処理剤の効果が低い場合などは雑草が小さいうちに茎葉処理剤で除草をお願いします。
収穫適期は子実水分が30%を下回った頃ですが、ブラックレイヤーが一つの目安となります。十分乾燥しないで収穫した場合には子実の割れや芯などの混入原因になりますので気をつけてください。収穫後はカビが生えやすいので速やかに乾燥します。子実水分13%以下を目安にしっかりと乾燥してください。