実証担当者の声
佐賀県杵藤農林事務所 藤津農業振興センター
普及課 土地利用型作物・畜産担当 技師
平野 優徳様
たまねぎ栽培の省力化・低コスト化が期待できる直播栽培
佐賀県では農家所得の確保・向上を目的に、園芸農業産出額を888億円(令和10年目標)へ伸ばす「さが園芸888運動」を展開しています。この達成に向けて、生産コストの低減による競争力のある農作物づくりが求められています。特に全国2位の生産量を誇るたまねぎは、水田の高度利用を図りながら、中晩生品種の作付け面積を拡大するとともに、省力化・低コスト化が期待できる直播栽培の実証を進めてきました。
今年度、鹿島市の七浦干拓地区の水稲後ほ場で現地実証調査を行っている藤津農業振興センターの平野さんは、「鹿島市のたまねぎの栽培面積は約200haですが、この七浦地区はその中でも中心となる地区です。ただ、農家の高齢化が進んでおり、労働力の確保が年々難しくなっています。そこで、直播栽培技術を導入することで、移植栽培の育苗部分の作業時間及び労力削減を実現したいと考えています」と実証の目的を説明します。
七浦干拓(鹿島市)の水田後作ほ場で行われたたまねぎ直播の実証調査
直播栽培の課題は、出芽率向上と雑草対策
佐賀県が、昨年まで実証した結果では、安定した収量を図るために、出芽率の向上や雑草抑制、病虫害対策が課題として上がりました。そのため今回の実証では、その課題を解決することを目的に実証区として「堆肥被覆区」を設定。クボタたまねぎ直播機を使用して播種を行った後、ブロードキャスタで堆肥を散布し、出芽および雑草発生に及ぼす影響を調査します。平野さんは、「直播栽培では、播種後の降雨によって土壌が固まり、クラストができて出芽不良が起こることがあります。もみ殻牛糞堆肥を不織布の代わりに表面散布し、覆土することで出芽しやすい土壌条件にできればと考えています。目標は移植栽培と同等の栽培本数を確保することです」と説明します。さらに、降雨対策として、新しく開発されたオプションパーツの「溝削り部品」を直播機に装着。溝底播種技術で施工された播種溝をわざと削って溝を浅めに作ることで深植えを回避し、出芽率の向上を狙います。
堆肥施用による直播たまねぎ栽培の出芽率安定化技術の実証
クボタたまねぎ直播機による播種作業
堆肥被覆区はブロードキャスタで堆肥を散布
たまねぎ直播の実証区
生産者の声
佐賀県鹿島市
松本 高徳 様
【経営内容】たまねぎ10ha、水稲4ha、大豆3ha、みかん10a
「労力の確保」の解決策として選んだ「たまねぎ直播」
実証農家として参画している鹿島市の松本さんは、経営の中心に据えるたまねぎを10ha栽培。その内の9割を七浦干拓の水田で水稲の後作として作付けしています。松本さんは、「今、農家の高齢化が進み、離農する人や麦に転換する人が増えています。近隣の人たちがたまねぎをやめていくことで、逆に私は『チャ
ンス』だと捉えています」と逆転の発想でたまねぎ栽培に力を注いでいます。
「今、いちばんの課題は労力の確保です。たまねぎの定植作業も人の確保が限界に来ています。そこで注目したのが直播栽培です」と松本さん。リン酸種子直下施肥に魅力を感じ、いち早くクボタたまねぎ直播機を導入。安定栽培技術の確立に取り組んでいます。
松本さんが「リン酸種子直下施肥が魅力」と話すクボタたまねぎ直播機
視察に来た近隣農家の方にたまねぎ直播栽培について説明する松本さん(写真左から2人目)
播種後の降雨対策に効果を発揮した「不織布のべたがけ」(県独自実証)
直播栽培において、今、松本さんが見極めたい技術のポイントは出芽率の向上です。その年の天候の影響を受け、播種後に降雨が続くとクラストが発生し出芽率が低下し、収量が安定しないことが課題だと言います。「移植栽培の収量が6~7t/10aのところ、3tほどの収量のときもありますが、育苗経費がかからないため、取り組む価値は十分にあります。今回の実証では堆肥を被覆するなど出芽率を高める試験が行われていますので、出芽率を70%くらい確保したいですね」と今回の実証に期待を寄せています。
さらに松本さんは、今回のシステム化実証に絡めて、畑地の別ほ場で県が独自に実証している播種後の「不織布のべたがけ」が降雨対策に効果があると感じています。「播種の翌日に雨が降っても、不織布をべたがけしたところの土は硬くならず柔らかくて、出芽率がよかったです。かけていないほ場と全然違いました」と感心していました。
直播栽培が軌道に乗れば、現在の10haに加えて、2~3ha規模でたまねぎ直播のほ場を拡大していきたいと考えている松本さん。「将来的には、七浦干拓のたまねぎ作付面積の半分を超える、30haぐらいまで規模拡大したいですね。そこで省力化しながら、品質の良いたまねぎを作り、外国産に負けないように頑張りたいと思います」と今後の抱負を語ります。
ココがポイント! 出芽率の向上が期待できる2つの対策
❶「溝削り部品」で浅溝成型
播種期の多雨(過湿)や砂質ほ場(溝崩れ)では3~4㎝の浅溝に
通常の溝の深さは約5㎝。播種時期に降雨が多い場合は溝が崩れて深植えになるリスクがあるので、浅溝成型にします。オプションの「溝削り部品」で溝の深さを浅くすることも可能です。
浅溝成型のため2025年に開発した 「溝削り部品」
(オプション:アグリアタッチ研究所 部品扱い/品番TB4450)
浅溝成型のイメージ
実証ほ場の浅溝成型されたうね
❷不織布のべたがけ
降雨によるクラスト防止、低温対策に効果あり
不織布をかけることで、豪雨による溝崩れや冠水によるクラストの発生を緩和したり、溝底の空間を保温できるなど、出芽率向上に効果があります。
播種直後の降雨対策に効果が 期待される「不織布のべたがけ」
クボタ不織布展張・巻取機FMM-K1
■省力&効率作業
通常多人数を要する作業が2名でも行えます。不織布を展張(前進)しながら、あるいは巻取り(後進)しながら作業できるので、能率も上がります。
■様々な作物、うね幅に対応
車輪軌間幅は1100~1800㎜の間で調整可能。様々なサイズのうねをまたいで作業ができ、多様な露地野菜・畑作物に対応します。
技術開発者の解説
農研機構 九州・沖縄農業研究センター
研究推進部技術適用研究チーム チーム長
博士(農学)
松尾 健太郎氏
輸入たまねぎに対抗できる国産たまねぎに挑む
生鮮野菜の中でもっとも輸入量が多いのがたまねぎです。このたまねぎを国産化することと、これからの高齢化と人手不足に対応するために、直播栽培で、労働時間と生産コストを削減しようと取り組んだのが始まりです。また、学校給食で国産や地場産のたまねぎを使いたいという要望も寄せられています。そういう声に応えるために直播技術の開発に取り組んでいます。
溝底播種技術とリン酸種子直下技術を一体化したクボタたまねぎ直播機
たまねぎの直播栽培が、今までできなかった理由は、出芽が安定しないことと、生育がどうしても緩慢であるところです。そこで開発されたのが溝底播種技術で、うねの上に小さな溝を掘り、その溝底に播種する技術です。直射日光を浴びないので、高温になりにくく、水分を保持して出芽が安定します。もうひとつは、種子の直下にリン酸を局所的に与えるリン酸種子直下技術です。たまねぎは、出芽直後にリン酸を吸収することがとても生育に大事です。この2つの栽培技術は農研機構で以前に開発していましたが、一体化できる機械がありませんでした。その技術を1つの機械に組み込み、1工程で全部できるようにしたのが、今回、実
証で使用しているクボタたまねぎ直播機です。この直播機は、うね立て、うね上溝成型、播種、りん酸種子直下施肥、農薬(粒剤)施用の作業が1工程で行えます。
クボタたまねぎ直播機による播種状況を確認する松尾チーム長(写真右端)
気象条件を見極めて播種作業を行うことが栽培のポイント
直播栽培のポイントは、土壌条件、気象条件、リン酸種子直下施肥、雑草管理と病害虫管理の4つです。数々の実証から得られた知見から、農研機構やクボタでは栽培の手引を作っていますのでぜひ参考にしてください。また、近年は豪雨が頻発しており深い溝底播種が問題になる場合もありました。雨が1週間以内に降るような状況なら、今回の実証のように溝を浅くして播種を行う。雨がしばらく降らない場合は溝を深くするなど、気象条件を予報から見極めて播種作業を実施することも大切になります。
地域によって播種する品種、播種する適期があるので、その辺りを見極めることも大切です。1回で諦めず、何が問題だったかを把握して、積み重ねていけば、その先に必ず成功があると思っています。





