田植機2台を3人組作業で操り省力化 お気に入りに追加
北秋田市の中山間地水田で無人田植機と有人GS田植機による同時作業を実証
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 5月10日、北秋田市にある㈱みそらファーム様のほ場で、アグリロボ田植機(無人仕様)と有人田植機の2台が同時に作業し、作業者の省人化を図る実証が行われました。これまで比較的ほ場条件の整った地域で行われてきたスマート農業技術ですが、中山間地域ではどのように活用すれば良いのかが問われています。限られた労働力でいかに効率的な作業を行うかが大きな課題となる中、中山間地域での生き残りをかけ、スマート農業を駆使した経営発展をめざす農業者と、地域農業を支える普及指導員の活躍をレポートします。

目次

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実証担当者の声

秋田県北秋田地域振興局農林部 農業振興普及課
技師 野村 麗美様

中山間地域でのスマート農業の導入効果の検証は重要課題です

 中山間地域では労働力不足が特に大きな課題となっており、その解決策としてスマート農業に期待が寄せられています。しかし、中山間地域での導入効果の検証は十分とは言えません。そこで、今回の実証では、大区画ほ場での活用イメージが強いアグリロボ田植機(無人仕様)を中山間地域でどう活かすのか、中小規模の水田でどのように作業を行えば効率的なのか、また導入効果といったところを普及課の重点課題に据えて検証しています。
 実証は2022年度から行われており、昨年は1枚のほ場において、アグリロボ田植機(無人仕様)のみで実証を行いました。本年度はさらに、アグリロボ田植機(無人仕様)と有人田植機の2台同時作業を作業者3名で行う実証を追加しています。実証農家のみそらファーム様は、地域の担い手として活躍され、アグリロボ田植機を含む多くのスマート農機を導入されている全国的にも先駆的な農業者です。アグリロボの操作に馴れていることもあり、実証農家として参画をお願いしました。

自動運転で田植え作業を行うみそらファーム所有のアグリロボ田植機NW8SA(無人仕様)

※クリックで拡大します

実証を通じて農業者に負担の少ない体系を模索していきたいです

 今回調査を行った際に、同時作業の課題も見えてきました。実証区ではオペレータ2名、補助者1名で作業を行いましたが、それぞれの田植機が交互に畦際に戻ってくるため補助者の方は苗継ぎに大忙しで、逆に負担になっているように感じました。ちゃんと軽労化に繋がるよう、改善方法を見出していきたいと考えています。普及指導員として若手農業者と話をすることがありますが、スマート農業はかなり興味深いコンテンツです。実証を通じて自分自身も経験を積みながら、地域の農業者に向けて有益な情報を発信していきたいと思います。

みそらファームで導入されているアグリロボNW8SA(無人仕様)とGS田植機NW8S-GSで実証を行った

事前に組作業の流れを綿密に打ち合わせ

アグリロボ田植機の動作や精度を細かく確認

お客様の声

株式会社みそらファーム
代表取締役 若松 一幸様
[経営面積] 水稲53ha、その他(大豆、そば)20ha 

品質と環境を重視した米作りをしています

 米は全量、使用農薬成分数を慣行の50%以下に抑えた「あきたecoらいす体系」で栽培しています。これは、環境に配慮した防除技術(IPM防除技術)によって、農薬成分回数を慣行栽培の半分以下に減らした栽培体系です。また、ほ場ごとに適した施肥量を自動で調量してくれる田植機によって、肥料のムダをなくすようにして、品質をできるだけ均質に仕上げるように心がけています。販売は首都圏のスーパーマーケットやチェーン店との契約販売を主に、飲食店や介護施設、家庭向けの需要に応えた直接販売も行っています。また、北秋田市ふるさと納税の返礼品にも採用いただいています。

スマート農業の活用で人手不足を補っています

 北秋田市は、農業の後継者どころか家を継ぐ人がいないので空き家がどんどん増えるくらい少子高齢化が深刻です。今まで地域の受け皿として活躍していた方が、ご高齢になって農業を辞めてしまうと、その方が管理していた農地を何とか守りたいということで、我々のような経営体に農地が一気に集中してきます。急激な拡大に対応するには、人材の確保が一番良いのですが、昨今の人手不足の中それはとても難しい。そこでICTを活用しながら少ない人数でも作業能率が上げられるよう工夫していきたいと考えています。

実証で同時作業を行ったみそらファームの皆様。実証区では連坦する2筆のほ場での作業を3名(オペレータ1名、補助者2名)で行った

営農の「見える化」を図ることで計画的な作業が可能になりました

 この地域では中小規模の区画のほ場が多く、我々が管理するほ場枚数も必然的に増えていました。紙ベースで管理していくことには限界を感じて、何か良いツールをと探していたときに、ちょうどクボタの営農支援システムKSASがリリースされたので、直ちに導入に至りました。当時はまだKSAS対応機械などなかったのですが、とにかく営農の「見える化」を図ることが一番でした。最近では、KSAS対応農機も増えてきて、春作業など様々な作業が同時進行している農繁期でも、作業の進捗がパソコンやスマートフォンでわかるので、人員の配置や次の計画が立てやすいことにメリットを感じています。

アグリロボ田植機はリモコン1つ渡せば初心者でも作業を任せられます

 以前からGS機能付きの田植機を導入していますが、自動でまっすぐ走行しながら移植を行うことで、仕上がりがきれいで、その後の管理も楽になりました。さらに高レベルな作業を目指して、2022年からアグリロボ田植機NW8SA(無人仕様)を導入しています。導入当初は、ベテランのオペレータが乗ったほうが早いと感じていました。しかし、今はマッピングや外周の田植えだけをベテランが行い、後は初心者の方にリモコン1つ渡しておくだけで作業が進むので、かなり助かっています。これは画期的だなと思います。

アグリロボ田植機でワンオペ作業を行う若松様

ほ場登録やリモコン操作もとてもスムーズ

最先端の農業技術で若い人に興味を持ってもらいたい

 スマート農業を導入して、劇的に能率が上がったというわけではありませんが、できるところから改善を図るようにしています。KSASを活用すれば、ピンポイントで作業するほ場を指示でき、作業者も間違うことなく目的のほ場にたどり着けます。時間の余裕も少しずつ生まれてきます。我々は、アグリロボ田植機を始め、スマート農機を積極的に導入しています。これはこうした作業能率を考えてのことでもありますが、若い人たちに農業に興味を持ってもらうための情報発信になれば良いとも考えています。次世代にまで農地を受け継ぐため、ICTで未来に繋がる魅力ある経営を目指していきたいです。

クボタ技術顧問の解説

株式会社クボタ アグリソリューション推進部
技術顧問 及川 一也

中山間地ならではの使いこなし術

 アグリロボは、衛星の測位誤差を、リアルタイムで高精度にしながら位置情報を把握するので、GS田植機よりもさらに高精度な自動作業が可能になります。最適な経路を自動で作成し作業を行う「匠植え」により、燃油の無駄が少なくなります。また、「捨て苗」や施肥ムラを軽減する機能があるので、コスト削減に加えて、環境に配慮した農業の実現にも繋がります。
 今回の実証では、みそらファーム様が所有している無人仕様のアグリロボ田植機と直進キープ(GS)田植機を用いて、30a区画の連坦水田4筆を、限られた人員でいかに作業すれば、楽に最大限の効果を得られるかといったところに挑戦しています。結果(暫定)として、10a当たり苗箱数はねらい通りの12箱で、欠株もごく少なく、2筆約56a当たりの全作業を約53分(人力は述べ146分)で完了できました。当然ながら、ほ場条件や経営方針などによっても最適な作業体系は異なります。慣れていないと本来の効果を発揮できませんし、逆に労働負荷が増す懸念もあります。その点、みそらファーム様はスマート農機の取り扱いに精通していますので、使いこなしという点でも非常に参考になるものと思います。

若松様(左)と意見交換を交わす及川技術顧問(右)

土中に埋まっている石で車体が大きく揺れてもすぐにまっすぐな走行に戻るNW8SA

自動化農機やKSASの経営全体での効果

 アグリロボを始めとするスマート農業技術はこれまで、基盤の整った大区画ほ場条件で実証を行うことが多かったのですが、今回は、中小区画水田で、スマート農業機械をどのように使うのが最適なのかを探って調査していることが特徴だと思います。みそらファーム様がKSASに記録されている作業データも参考にしながら、経営全体としてどのようにスマート農機をご活用されているのか分析し、今回の田植機2台を使った3人組作業体系を導入できる条件(連坦性や集積程度)の整理を行う計画です。4筆の調査結果を経営全体に展開した際にもねらい通りの成果が得られるのか、皆様と検討を重ねて、良い結果を発信できたらと思います。中小区画の分散したほ場を受託している経営体では、作業体系が複雑になりがちです。労働力も限られる中、どのように効率的に地域の水田を守り、持続的に美味しい農産物を生産していくのか。その際に、経営全体を通して、自動化農機やKSASなどのスマート農業技術をどのように活かしていくか。また生じる問題は何か。わからないことが多いですので、今回の実証を通じて、みそらファーム様のメリットや課題が把握できれば、貴重なヒントが得られるものと期待しています。

「無人ロボット田植機と有人田植機による同時作業の実証」5月10日作業内容

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